子供が挨拶や感謝の言葉(ありがとう、ごめんなさい)を言えない時:年齢別の教え方と親の葛藤解消法
子供が「ありがとう」「ごめんなさい」などを言えない背景と親の役割
子供が成長するにつれて、私たちは社会生活を送る上で欠かせない基本的なマナーや言葉遣いを身につけてほしいと願います。中でも「こんにちは」「ありがとう」「ごめんなさい」といった挨拶や感謝・謝罪の言葉は、人との関わりにおいて非常に重要です。しかし、これらの言葉を子供がなかなか口にしない、あるいは状況に応じて適切に言えないという悩みは、多くの親御様が経験されるものです。
なぜ子供はこれらの言葉を言えないのでしょうか。それは単に「教えられていないから」という単純な理由だけでなく、子供の発達段階や心理状態、周囲の環境など、様々な要因が影響しています。特に小学校低学年と高学年では、その背景にある理由や効果的な対応策が異なります。
本記事では、子供が挨拶や感謝・謝罪の言葉を言えない理由を年齢別に掘り下げ、それぞれの年齢に合わせた具体的な教え方や声かけの方法を提案いたします。また、「うちの子は挨拶ができない」「躾ができていないと思われるのでは」といった親御様が抱えがちな葛藤にどう向き合い、解消していくかについても考察します。忙しい日々の中でも実践できるヒントもご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
なぜ子供は挨拶や感謝の言葉を言えないのか?年齢別の理由
子供が挨拶や感謝・謝罪の言葉を言えない背景には、様々な要因が考えられます。発達段階によってその主な理由は変化していきます。
小学校低学年(〜8歳頃)の場合
この時期の子供は、まだ自己中心的な視点が強く、他者の気持ちや状況を完全に理解することが難しい場合があります。また、感情や言葉での表現力も発達途上にあります。
- 恥ずかしさや照れ: 見慣れない人や、特定の状況で声を出すことに強い恥ずかしさを感じることがあります。特に人前では声が出にくくなることがあります。
- 状況判断の未熟さ: どのような場面で、誰に対して、どのような言葉を伝えるべきか、瞬時に判断することが難しい場合があります。
- 言葉の定着不足: 言葉の意味や重要性は理解していても、習慣として自然に口から出てくるほど定着していないことがあります。
- 気分や感情に左右される: その時の気分が乗らない、遊びに夢中になっているなど、感情や目の前の活動に意識が向きすぎて、適切な言葉が出ないことがあります。
- 発達段階: 社会性やコミュニケーション能力は、経験を通じて徐々に獲得していくものです。まだその過程にいる段階であることを理解する必要があります。
小学校高学年(9歳頃〜)の場合
この時期になると、自己意識が芽生え、友達や周囲からの目が気になるようになります。論理的な思考力も高まりますが、思春期に向けて反抗心が出てくることもあります。
- 照れやプライド: 「格好悪い」「子供っぽい」と感じて、素直に挨拶や感謝の言葉を口にするのをためらうことがあります。特に友達の前では顕著になることがあります。
- 必要性を感じない: 形式的なものと感じたり、言葉にしなくても伝わっているだろうと考えたりして、言葉を省略してしまうことがあります。
- 反抗心や自己主張: 親や大人からの指示に対して、あえて逆らったり、自分の意思を示したりする一環として、言葉を拒否することがあります。
- 周囲の影響: 友達同士で挨拶をしない雰囲気があるなど、集団の影響を受けることがあります。
- 論理的な思考の開始: なぜその言葉が必要なのか、自分にとってどんな意味があるのかなどを考え始めますが、納得できない場合は行動に移さないことがあります。
年齢別の効果的な教え方・声かけ
子供が言葉を言えない理由を踏まえ、年齢に応じたアプローチが必要です。強制するのではなく、言葉の持つ意味や、それによって生まれる良い関係性を理解させることが大切です。
小学校低学年へのアプローチ
この時期は、具体的な行動と肯定的なフィードバックが効果的です。
- 親自身が手本を示す: 日常生活の中で、親御様自身が進んで「おはよう」「ありがとう」「ごめんね」といった言葉を使い、子供に見せることが最も重要です。家族間でのやり取りで自然なモデルを示します。
- 具体的な状況での声かけ: 例:「〇〇さんにプレゼントをもらったね。こういう時は何て言うのかな?」「△△君が転んじゃったから、大丈夫?って声かけてあげようか。そして、ごめんね、って言えたらいいね」のように、その場でどう伝えるべきか具体的に促します。
- 一緒に言葉を言う練習: 恥ずかしがる場合は、「一緒に言ってみようか」「ママ(パパ)と一緒にどうぞ」と声をかけたり、人形などを使って役割練習をしたりするのも良いでしょう。
- 言えたら具体的に褒める: 言葉を口にできた時には、「〇〇さんに『ありがとう』って言えて偉かったね!」「きちんと挨拶できて嬉しかったよ」など、具体的に褒めて肯定的な行動を強化します。結果だけでなく、言葉にしようとした努力自体も認めましょう。
- 遊びの中で学ぶ: ごっこ遊びなどで、挨拶や感謝・謝罪の場面を取り入れることで、楽しみながら言葉の使い方を学ぶことができます。
- 強制しない: 強く叱ったり、無理やり言わせたりすると、言葉を言うこと自体に抵抗感を持つようになる可能性があります。まずは親が代弁して伝えるなど、フォローすることも必要です。
小学校高学年へのアプローチ
この時期は、頭ごなしに叱るのではなく、対話を通じて言葉の重要性を理解させることが中心となります。
- 言葉の持つ意味や社会性を伝える: なぜ挨拶や感謝の言葉が必要なのか、それが人間関係にどう影響するのかを、子供が理解できる言葉で伝えます。例えば、「『ありがとう』と言われると、相手は嬉しい気持ちになるよね。そうすると、また助けてあげたいなって思えるでしょう?」「『ごめんなさい』は、悪かったことを認める勇気ある言葉だよ。そうすることで、相手との関係をもう一度良くすることができるんだよ」のように、言葉の先に生まれる相手の気持ちや関係性の変化について話します。
- 本人の気持ちに寄り添う: 「言いたくない時もあるよね」「恥ずかしい気持ち、わかるよ」など、子供の感情に寄り添いつつ、「でもね、言えるとこんな良いことがあるんだよ」と促します。
- 状況を一緒に振り返る: 言えなかった場面を後で冷静に振り返り、「あの時、なんて言えたら良かったかな?」「どうすれば言えそうかな?」と子供自身に考えさせ、次への対策を一緒に考えます。
- 目標設定とスモールステップ: いきなり完璧を目指すのではなく、「まずは家族には大きな声で挨拶しよう」「お店の人には『ありがとう』を言ってみよう」など、具体的な小さな目標を設定し、達成感を積み重ねさせます。
- 親も完璧ではないことを伝える: 親自身も時には言葉足らずになることや、感情的になってしまうことがあると伝え、「完璧じゃなくていいんだよ。でも、言おうとする気持ちが大切なんだよ」と共感的に語りかけます。
- 夫婦間での統一した姿勢: 親御様の間で、言葉遣いやマナーについての方針を話し合い、一貫した態度で子供に接することが重要です。
親が抱える葛藤への対処法
子供が挨拶や感謝の言葉を言えない時、「自分の躾が悪いのかな」「周りの人にどう思われているだろう」といった不安や焦りを感じる親御様は少なくありません。このような葛藤にどう向き合うべきか考えてみましょう。
- 他の子との比較をやめる: 子供の成長スピードは一人ひとり異なります。よそのお子さんと比較しても、親御様が辛くなるだけで、建設的な解決にはつながりません。目の前の我が子の成長に目を向けましょう。
- 長期的な視点を持つ: 挨拶や感謝の言葉は、一度教えたからといってすぐに身につくものではありません。子供の成長とともに、繰り返し経験し、学ぶ中で徐々に定着していきます。焦らず、長い目で見守る姿勢が大切です。
- 「躾ができていない」という評価に縛られない: 子供の行動の全てが親の責任ではありません。子供自身の性格やその場の状況など、様々な要因が影響しています。「完璧な親」を目指す必要はありません。できる範囲で、子供に寄り添い、教えようとしている自分自身を認めましょう。
- 夫婦で協力し、支え合う: 教育方針や子供への声かけについて、夫婦で話し合い、共通理解を持つことが重要です。意見が分かれる場合は、感情的にならずに互いの考えを伝え合い、妥協点を見つけましょう。一人で抱え込まず、パートナーと悩みを共有することで、精神的な負担も軽減されます。
- 完璧主義を手放す: 子供も親も人間です。常に正しい言葉遣いや完璧な対応ができるわけではありません。失敗しても大丈夫、間違えてもやり直せるといった柔軟な考え方を持つことが、親御様自身の心の安定にもつながります。
忙しい親のための実践ヒント
ビジネスパーソンとして忙しい日々を送る中で、子供の言葉遣いやマナーにじっくり向き合う時間を作るのは難しいかもしれません。しかし、短い時間でも効果的に関わる方法はあります。
- 特定のシチュエーションに絞る: いきなり全ての場面での完璧を目指すのではなく、「家に帰ってきたら『ただいま』を言う」「何かをしてもらったら『ありがとう』を言う」など、まずは一つか二つの特定の場面に絞って声かけを徹底します。
- 「ながら」コミュニケーション: 食事の準備中や通勤中など、限られた時間の中で「今日、誰かに『ありがとう』言った?」「どんな時に『ごめんなさい』って言うか覚えてる?」など、さりげなく話題にしてみるのも良いでしょう。
- 家族全体で取り組むルールにする: 「我が家では、何かしてもらったら『ありがとう』を言いましょう」といった家族のルールとして共有し、親も率先して実行することで、子供も自然と意識するようになります。
- 短い時間でのポジティブな声かけ: 言葉を言えなかった時に長時間叱るよりも、言えた時に短くてもいいから具体的に褒める時間を作ることの方が、子供の意欲につながります。
まとめ
子供が挨拶や感謝・謝罪の言葉を言えないことは、決して特別なことではありません。子供の発達段階や心理、環境など、様々な要因が絡み合っています。大切なのは、頭ごなしに否定したり、無理強いしたりするのではなく、なぜ言えないのか、背景にある理由を理解しようとすることです。
小学校低学年では、親が具体的な手本を示し、繰り返し練習すること、そしてできた時に肯定的にフィードバックすることが効果的です。小学校高学年になると、言葉の持つ意味や社会性を対話を通じて理解させ、本人の気持ちに寄り添いながら、自主性を尊重するアプローチが重要になります。
親御様が抱える「躾ができていないのでは」といった葛藤は、他の子との比較をやめ、長期的な視点を持ち、夫婦で協力し合うことで和らげることができます。忙しい中でも、特定の場面に絞ったり、家族のルールとして共有したりするなど、工夫次第で子供と効果的に関わることは可能です。
挨拶や感謝の言葉は、子供が社会の中で他者と良好な関係を築いていくための大切な一歩です。焦らず、根気強く、そして温かく見守りながら、子供の成長をサポートしていきましょう。