子供が自分の非を他人のせいにする時:年齢別の向き合い方と親の葛藤解消法
子供が何か問題を起こしたり、失敗したりした時に、「〇〇君がやった」「だって〜だから」と、自分の非を認めずに他人のせいにしたり、言い訳をしたりすることがあります。親としては「なぜ正直に言わないのだろう」「このままだと責任感のない大人になるのでは」と心配になり、どのように向き合えば良いのか葛藤を抱えることも少なくありません。
本記事では、子供が他人のせいにする行動の背景にある心理や発達段階を理解し、小学校低学年と高学年という年齢に合わせた具体的な対応策、そして親御様が抱える葛藤を解消するための考え方について解説いたします。
なぜ子供は自分の非を他人のせいにするのでしょうか?
子供が自分の失敗や問題の原因を他人に求める行動には、いくつかの理由が考えられます。これらは子供の発達段階や心理状態によって異なります。
- 自己防衛本能: 自分が責められたり、罰せられたりすることへの恐れから、無意識に自分を守ろうとします。「自分が悪いのではない」と思うことで、心の安定を保とうとします。
- 失敗への恐れ: 失敗は「悪いこと」「恥ずかしいこと」と感じている場合、その事実を認めたくないという気持ちが強くなります。他人のせいにすることで、失敗から目を背けようとします。
- 注目されたい・良い評価を得たい: 良い子でいたい、親や先生に認められたいという気持ちが強い場合、失敗した自分を見せたくないという心理が働きます。
- 責任の概念が未発達: 特に幼い頃は、自分の行動とその結果に対する「責任」という概念が十分に理解できていません。何が原因で起こったのか、論理的に考えることが難しい場合もあります。
- 他者への共感性不足: 相手の気持ちを想像したり、自分の行動が他者にどのような影響を与えるかを理解する能力がまだ発達途上である場合、安易に他人のせいにしてしまうことがあります。
- 親や周囲の反応を学習: 以前に正直に話して強く叱られた経験がある、あるいは他人のせいにする子供が罰を免れているのを見た、といった経験から、言い訳や責任転嫁が有効な手段だと学習してしまう可能性もあります。
これらの背景を理解することは、感情的に叱るのではなく、子供の心に寄り添った対応をする上で重要です。
親が抱える葛藤:どう向き合うか
子供が他人のせいにする姿を見ると、「正直さが一番なのに」「責任を取ることを学んでほしい」という思いから、つい感情的になってしまうこともあるでしょう。ビジネスの場では自己責任が当然とされる環境にいらっしゃる方ほど、子供の無責任な言動に厳しく向き合いたくなるかもしれません。
しかし、感情的に追及したり、一方的に決めつけたりすることは、子供をさらに追い詰め、本音を話さなくなる原因となる可能性があります。親の葛藤を解消するためには、まず子供の行動を冷静に観察し、背景にある理由を推測してみることが有効です。また、「完璧な子育て」を求めすぎず、子供が正直に話すことを恐れない安心できる関係性を築くことに焦点を当てる意識を持つことが大切です。
年齢別:子供が他人のせいにする時の効果的な対応策
子供の認知能力や社会性の発達段階に合わせて、対応方法を調整することが重要です。
小学校低学年(6歳〜8歳頃)
この時期の子供は、まだ自己中心的な考え方が残っており、物事の因果関係や他者の視点を十分に理解できないことがあります。
- 冷静に事実を確認する: まずは何が起こったのか、客観的に状況を把握します。「どうしてこうなったの?」と問い詰めるのではなく、「〇〇がこうなったんだね。次からはどうすれば同じにならないかな?」のように、問題そのものと解決策に焦点を当てます。
- 「誰がやったか」よりも「どうすればよかったか」に焦点を当てる: 特定の個人を犯人探しするのではなく、起きてしまった出来事に対して、次にどうすれば良いかを一緒に考えます。
- 「責任」を具体的な行動で示す: 「自分の使ったおもちゃは自分で片付ける」「自分がこぼしたジュースは自分で拭く」など、小さな責任を果たす経験を積ませます。これは「あなたの行動の結果、こうなった」という因果関係の理解にも繋がります。
- 正直に話す勇気を褒める: たとえ失敗の事実であっても、「正直に話してくれてありがとう」と、話してくれた行動そのものを認め、褒めます。正直さは決して損なことではないという経験を積ませます。
小学校高学年(9歳〜12歳頃)
この時期になると、他者の視点を理解できるようになり、社会的なルールや評価を意識し始めます。しかし、失敗に対する評価への恐れから、かえって責任回避の行動が強まることもあります。
- 行動とその結果、そして責任について論理的に話す: 子供の行動がどのような結果を招いたのか、そしてその結果に対して自分にはどのような責任があるのかを、子供が理解できるように具体的に説明します。「〇〇さんのせいだと思ったんだね。でも、君があの時△△しなかったから、この問題が起きたんだよ。もし△△していたら、どうなっていただろう?」のように、選択とその結果の関係性を考えさせます。
- 共感力を育む声かけ: 「もし君が〇〇さんの立場で、自分のせいにされたらどんな気持ちになるかな?」のように、他者の感情を想像するよう促します。
- 正直さが信頼に繋がることを伝える: 「正直に話すのは勇気がいることだけれど、人は正直な人には信頼を置くものだよ」「嘘をついたり、他人のせいにしたりしていると、周りの人は君のことを信じられなくなってしまうかもしれない」など、長期的な人間関係や社会生活における正直さの価値を伝えます。
- 自分で解決策を考えさせる: 起きてしまった問題に対して、どのように責任を取り、どのように解決するかを子供自身に考えさせ、実行させます。親はサポートに回り、安易に手や口を出さないようにします。
- 親自身の姿勢を示す: 親自身が失敗した時に言い訳をせず、潔く非を認め、責任を取る姿を見せることが何よりの教育になります。
親の葛藤を解消するヒント
子供の責任転嫁に直面した時、親が自身の葛藤を乗り越えるための考え方をいくつかご紹介します。
- 発達段階として理解する: 子供の「他人のせいにする」行動は、未熟さゆえの行動であり、必ずしも悪意だけではないことを理解します。彼らは責任回避のスキルを学んでいるのではなく、自己防衛や状況判断の方法を試行錯誤している段階にあると捉えます。
- 長期的な視点を持つ: 一朝一夕に子供の行動が変わるわけではありません。粘り強く、繰り返し教え続ける覚悟が必要です。すぐに改善しなくても自分を責めすぎないことが大切です。
- 夫婦で方針をすり合わせる: 子供の過ちへの対応について、夫婦間で意見が分かれると子供は混乱します。「パパは厳しく叱るのにママは甘い」といった状況は避け、基本的な方針や伝え方について事前に話し合っておくと良いでしょう。
- 子供の「できないこと」ではなく「できること」に目を向ける: 他人のせいにしてしまう一方で、努力している点や、正直になれた小さな一歩をしっかりと見つけて褒めることで、子供の自己肯定感を育み、挑戦することや正直になることへの抵抗感を減らすことができます。
- 自分自身の行動を振り返る: 親自身が普段、仕事の忙しさやストレスから、家族に対して無意識のうちに言い訳をしたり、責任を回避するような言動をとっていないか、客観的に振り返ってみることも有効です。親の言動は子供にとって最も身近な手本となります。
まとめ
子供が自分の非を他人のせいにする行動は、親にとって心配や葛藤の種となりますが、多くの場合、子供の発達段階や心理的な背景に根ざしています。感情的に叱るのではなく、子供の年齢に合わせた理解と、論理的かつ共感的なアプローチで向き合うことが重要です。
小学校低学年では、具体的な経験を通して責任の概念や因果関係を教え、正直さの価値を伝えることから始めます。小学校高学年では、行動の結果が自分自身や周囲に与える影響、そして社会生活における正直さと責任の重要性について、より深く考えさせます。
親御さん自身が抱える葛藤に対しては、子供の行動を発達段階として捉え、長期的な視点を持ち、夫婦で協力しながら、子供の成長を粘り強くサポートしていく姿勢が大切です。この経験を通して、子供は正直さ、責任感、そして他者への配慮といった、社会で生きていく上で不可欠な資質を身につけていくことでしょう。