子供が物を共有できない・貸し借りでトラブルになる時:年齢別の原因と対応、親の葛藤解消法
子供の物の共有・貸し借り、なぜ難しいのか?親の悩みと向き合う
お子様が友達や兄弟と遊ぶ際、おもちゃや本、ゲームなどの物の貸し借りでトラブルになることは珍しくありません。「貸したくない」と頑なに拒否したり、「返してくれない」と揉めたり、中には勝手に人の物を持って行ってしまったりすることもあるかもしれません。
こうした状況に直面すると、親としては「どうしてうちの子は物を共有できないのだろう」「友達と仲良くできないのでは」「ケチだと思われたらどうしよう」といった心配や、「自分の物は大切にさせたいが、協調性も必要だ」「忙しくてゆっくり教える時間がない」といった葛藤を抱えることも少なくないでしょう。
物の共有や貸し借りは、子供が社会性を学び、他者との関係性を築いていく上で重要な経験です。しかし、そこには子供なりの発達段階や心理があり、単純に「貸しなさい」「仲良くしなさい」と言うだけでは解決しない場合がほとんどです。
本記事では、小学校低学年と高学年のお子様が物を共有できない、貸し借りでトラブルを起こしやすい原因を年齢別に分析し、それぞれの年齢に合わせた具体的な対応策と、親御様が抱える葛藤を解消するためのヒントや考え方をご紹介します。論理的で実践的なアプローチを通じて、お子様が物を大切にしながら、他者との健全な関係性を築けるようサポートする方法を探求します。
物を共有できない・貸し借りでよくあるトラブル事例
子供の物の貸し借りや共有に関して、具体的にどのようなトラブルが見られるのでしょうか。代表的な事例をいくつか挙げます。
- 「貸したくない!」と拒否: 自分の大切な物、お気に入りの物、まだ遊びたい物を、他の子に触られたくない、使われたくないという強い気持ちから、貸すことを頑なに拒否するケースです。
- 「返してくれない!」と泣く/怒る: 貸した物が約束の時間やタイミングで返ってこない、あるいは相手が独占して遊び続けることに対して、不満や怒りを爆発させるケースです。
- 勝手に持っていく/借りていく: 相手に断りなく、興味を持った物を勝手に持ち去ったり、借りていこうとしたりするケースです。これは所有権の理解不足や衝動性から起こることがあります。
- 貸し借りが原因で喧嘩に発展: 上記のようなトラブルがきっかけで、感情的になり、言葉や手が出てしまう喧嘩に発展するケースです。
これらのトラブルは、子供の成長過程において多くの家庭で見られますが、その背景にある理由や、親の適切な関わり方は、お子様の年齢によって異なります。
年齢別:物を共有できない・貸し借りトラブルの原因
子供が物を共有できない、貸し借りでトラブルを起こしやすい原因は、年齢による認知能力や社会性の発達段階に深く関係しています。
小学校低学年(6歳〜8歳頃)の場合
小学校低学年の子供は、まだ自己中心的な視点が強く残っています。スイスの心理学者ピアジェの発達理論においても、この時期は自己中心性が特徴とされることがあります。つまり、「自分が今どうしたいか」「自分の気持ち」が行動の中心になりやすく、相手の立場や気持ちを想像することがまだ難しい段階です。
- 強い所有欲: 自分の物に対する愛着や「これは私の物だ」という所有の意識が芽生え、自分のテリトリーを守ろうとする本能的な欲求が強い時期です。
- 他者の視点の理解不足: 「友達が貸してほしいと思っている」「貸したら友達は嬉しい」といった、相手の気持ちや状況を理解し、共感する力がまだ発達途中です。
- 物の永続性の理解が曖昧な場合: 一時的に貸すという行為が、「自分の物ではなくなってしまうのではないか」という不安につながることがあります。
- 衝動的な行動: 目の前にある魅力的な物に対して、使いたい、手に入れたいという欲求が強く働き、衝動的に手を出してしまうことがあります。
この時期の「貸したくない」「勝手に取る」といった行動は、必ずしも意地悪やわがままだけではなく、発達段階特有の自然な心理や認知の特性に起因している場合があることを理解しておく必要があります。
小学校高学年(9歳〜12歳頃)の場合
小学校高学年になると、他者の視点を理解する力(脱中心化)が発達し、客観的に物事を捉えたり、抽象的な思考ができるようになったりします。友達との関係性もより複雑になり、集団の中での自分の立場や評価を意識するようになります。
- 物の価値観の多様化と意識: 物そのものの価値だけでなく、ブランド、限定品、友達の間での流行りなど、社会的・文化的な価値やステータスを意識するようになります。大切な物、特別な物を簡単に貸したくないという気持ちが強まることがあります。
- 人間関係の複雑さ: 貸し借りが友達関係に影響を与えることを理解し始めます。「貸さないと仲間外れにされるのでは」「貸したのに返してもらえないと関係が悪くなる」といった、貸し借りを通じた人間関係の駆け引きや力関係が生まれることがあります。
- プライベートな所有物の意識向上: 自分だけの物、友達に見せたくない物など、プライベートな空間や所有物への意識が高まります。
- 貸し借りのルールや責任への理解不足: 貸し借りに伴う暗黙のルール(丁寧に使う、壊さない、期日までに返すなど)や、物を壊したり失くしたりした場合の責任について、十分に理解・認識していない場合があります。
高学年の貸し借りトラブルは、単なる所有欲だけでなく、より複雑な対人関係や自己評価が絡み合って起こることが多いと言えます。
年齢別:具体的な対応策と教え方
子供の年齢別の原因を踏まえ、親はどのように関われば良いのでしょうか。
小学校低学年向けの対応策
低学年の子供には、具体的な体験や分かりやすい言葉を通して、物の共有や貸し借りのルール、そしてそこで生まれる良い感情を伝えることが重要です。
- 「自分の物」「みんなの物」の区別を明確にする: 家庭内で、誰の物なのか、みんなで使える物なのかを視覚的にも分かりやすく区別する習慣をつけると良いでしょう(例:名前シールを貼る、共有のおもちゃ箱を用意するなど)。
- 無理に全てを共有させない: 子供にとって「どうしても貸したくない大切な物」があることを認め、それらは無理に貸さなくて良いというルールを作ることも大切です。これにより、子供は安心感を持ち、「自分で決めて貸す」という経験につながる可能性があります。
- 具体的な「共有」の方法を教える: 「順番に使う」「時間を決めて使う」「何かと交換して借りる」など、具体的な共有や貸し借りの方法を教えます。貸すことのメリット(友達と一緒に遊べる、自分の物も借りられるなど)を体験させます。
- 共感の姿勢を示す: 子供が「貸したくない」と泣いたり怒ったりしている時は、まずその気持ちに寄り添います。「大切な物だから貸したくないんだね」「まだ遊びたかったんだね」と声かけ、気持ちを受け止めてから、どうすれば良いかを一緒に考えます。
- 感謝の気持ちを伝える大切さを教える: 貸してくれた人には「ありがとう」、貸してもらった人には「丁寧に使うね」「返すね」といった言葉を伝える大切さを教えます。親自身が、子供に物を借りたり貸したりする際に感謝の言葉を伝える模範を示すことも有効です。
- トラブル時は冷静に仲介: 貸し借りでトラブルになった際は、親が間に入り、双方の子供の言い分を落ち着いて聞きます。どちらか一方を責めるのではなく、何が起きたのか、それぞれの気持ちはどうなのかを整理し、解決策を一緒に探ります。
小学校高学年向けの対応策
高学年の子供には、より論理的な思考や責任感に訴えかけ、自律的な判断や行動を促す関わり方が有効です。
- 物の価値観や所有権について話し合う: 「自分の物」を持つことの意味、他人の物を尊重することの重要性について話し合います。物には値段だけでなく、思い出や特別な意味があることを伝えます。
- 貸し借りに伴う責任を教える: 物を貸すこと、借りることには責任が伴うことを具体的に教えます。「もし壊してしまったらどうする?」「なくしたらどうする?」といった問いかけを通じて、予測と責任の意識を育みます。事前に「壊したら弁償する」「期日までに返す」といった約束を取り決めることの重要性も伝えます。
- 貸し借りの前の確認と約束を促す: 貸し借りのトラブルを防ぐために、貸す前に「これを貸していい?」「いつまでに返す?」など、相手と確認し、約束をする習慣をつけるよう促します。借りる側にも、返す日時や物の状態を確認する大切さを教えます。
- トラブル時の解決策を一緒に考える: 高学年になれば、トラブルが起きた際に、当事者同士で話し合い、解決策を見つける力を育むことが重要です。親はすぐに答えを与えるのではなく、子供がどうしたいか、どうすれば解決できると思うかを問いかけ、一緒に考えたり、解決に向けた話し合いをサポートしたりします。
- 相手の立場や気持ちを想像することを促す: なぜ相手は貸してくれなかったのか、なぜ返してくれないのかなど、相手側の状況や気持ちを想像するよう促します。多様な視点を持つことで、冷静な判断や共感につながります。
- 自分の物と他人の物を尊重する姿勢を育む: 自分の物を大切に扱うと同時に、他人の物も同様に大切に扱うことの重要性を伝えます。これは、物に対する敬意だけでなく、他者への思いやりにもつながります。
親が抱える葛藤への対処法
子供の物の共有・貸し借りに関するトラブルに直面すると、親は様々な葛藤を抱えます。
- 世間体や評価への不安: 「うちの子は意地悪だと思われているのでは」「親の育て方が悪いと思われるのでは」といった、周囲からの評価や世間体を気にする気持ちから焦りや不安を感じることがあります。
- 子供への思い: 「自分の大切な物を守らせたい」「友達と揉めて傷ついてほしくない」「友達から嫌われてしまうのではないか」といった、子供を思う気持ちが葛藤を生むことがあります。
- 時間的な制約: 忙しい日常の中で、子供のトラブルに一つ一つ丁寧に対応する時間がない、どう説明すれば効率的に伝わるのか分からない、といった時間やエネルギーの制約が、親の焦りやイライラにつながります。
これらの葛藤にどう向き合えば良いのでしょうか。
- 完璧を目指さない: 子供がすぐに完璧に共有できるようになる、一切トラブルを起こさなくなるといった、非現実的な目標を持たないことが大切です。子供は失敗を繰り返しながら学びます。親自身も完璧な対応を目指す必要はありません。
- 子供の気持ちを理解する姿勢を持つ: 子供が貸したくない理由、返してほしい理由など、その感情や主張の背景にある子供なりの気持ちをまずは理解しようと努めます。頭ごなしに叱るのではなく、「なぜそう思うの?」と問いかけることから始めます。
- 本当に大切なことを優先する: 物の共有や貸し借りは、より大きなテーマである「他者を尊重する」「約束を守る」「感謝する」「トラブルを解決する」といった社会性や責任感を学ぶ機会です。目先のトラブル解決だけでなく、これらの本質的な学びにつながる関わりを意識します。
- 夫婦で対応方針をすり合わせる: 子供の物の貸し借りに対する考え方や対応方針について、夫婦で話し合い、ある程度の共通認識を持っておくことが重要です。これにより、一貫した態度で子供に接することができます。
- 「教える」プロセスを楽しむ(意識する): 物の共有や貸し借りは、子供にとって新しいスキルであり概念です。親は「教える」という長期的なプロセスの一部を担っていると捉え、子供の小さな成長を認め、焦らずに関わっていく意識を持つことが、親自身の精神的なゆとりにつながります。忙しい中でも、子供の言葉に耳を傾け、一緒に考える短い時間を持つことが効果的です。
まとめ
子供が物を共有できない、貸し借りでトラブルになることは、成長過程において多くの子供が経験する自然な現象です。小学校低学年では自己中心性や所有欲、高学年ではより複雑な対人関係や物の価値観が背景にあります。
親は、これらの年齢別の原因を理解し、低学年には具体的なルールや共感を、高学年には論理的な話し合いや責任感の育成を促すといった、年齢に合わせたアプローチを取ることが効果的です。
そして、親自身が抱える「世間体」「子供への心配」「時間がない」といった葛藤も、自己受容し、完璧を目指さず、本当に大切な学びは何かに焦点を当てることで、少しずつ解消に向かうでしょう。
物の共有や貸し借りの経験を通じて、子供は自己と他者の境界線、所有権、責任、そして他者との協力や思いやりの大切さを学びます。親が根気強く、年齢に合わせた関わりを続けることが、子供の健やかな社会性の発達をサポートすることにつながります。忙しい日常の中でも、お子様との対話を大切にし、共に学び成長していく機会として捉えてみてはいかがでしょうか。