子供が自分の行動の結果を考えない時:年齢別の教え方と親が抱える葛藤の乗り越え方
子供の成長過程において、「自分の行動がどのような結果を引き起こすか」を予測し、考えて行動することは非常に重要な能力です。しかし、特に小学校年代の子供たちは、その場の気分や衝動に任せて行動し、後になって問題を引き起こしてしまうことが少なくありません。例えば、危険な場所で遊ぶ、友達との約束を簡単に破る、物を乱暴に扱う、宿題をギリギリまでやらないなど、親としては「どうして、もっと考えて行動しないのだろうか」と頭を悩ませる場面が多くあるかと思います。
このような子供たちの行動に対し、親は「なぜ何度言っても分からないのか」「将来が心配だ」といった様々な葛藤を抱えがちです。本記事では、子供が行動の結果を考えない理由を理解し、小学校低学年・高学年という年齢に合わせた具体的な教え方、そして親自身が抱える葛藤への向き合い方について考えていきます。
なぜ子供は行動の結果を考えないのか?
子供が行動の結果を予測したり、考慮したりすることが難しいのには、いくつかの理由があります。
まず、脳の発達段階が挙げられます。特に、将来の結果を予測し、計画を立て、衝動をコントロールする役割を担う前頭前野は、思春期にかけて徐々に発達していきます。小学校年代ではまだ十分に機能が成熟しておらず、目先の楽しさや欲求に引きずられやすい傾向があります。
次に、経験不足も大きな要因です。行動とその結果の間にどのような関連があるのかは、実際に経験することによって学んでいきます。まだ経験の浅い子供は、過去の出来事と目の前の行動の結果を結びつけることが難しい場合があります。
また、単に結果を予測する能力だけでなく、予測した結果を踏まえて行動を修正する自制心や衝動性のコントロールも未発達です。たとえ結果が分かっていても、その場の強い衝動に抗えないこともあります。
これらの理由は、子供が「悪いことだと分かっていて、わざとやっている」わけではない場合があることを示しています。子供の行動の背景には、脳の発達や経験といった生物的・環境的な要因が関わっていることを理解することが、適切な対応の第一歩となります。
結果を考えさせるための基本的なアプローチ
子供に「自分の行動の結果を考える」ことを教えるためには、以下の基本的なアプローチが有効です。
- 行動と結果の関連性を明確にする: 何か出来事が起こった際に、「〇〇したから、△△という結果になったんだね」というように、行動と結果をセットで具体的に言葉にして伝えます。
- 結果責任を体験させる: 失敗から学ぶ機会を設けることが大切です。ただし、過度な罰ではなく、行動によって生じた「自然な結果」や、親が設定する「論理的な結果」を通じて学ばせるようにします。
- 自然な結果: 例えば、おもちゃを出しっぱなしにしたら、次におもちゃで遊びたい時に探すのに時間がかかる、といった、行動そのものから自然に生じる結果。
- 論理的な結果: 例えば、約束の時間に遅れたら、楽しみにしていた〇〇に参加できなかった、といった、親が行動と関連付けて設定する結果。この際、結果は行動に見合ったものであり、感情的にならないことが重要です。
- 結果を予測する練習をさせる: 何か行動を起こす前に、「こうしたら、どうなると思う?」と問いかけ、予測する思考プロセスを促します。最初は簡単なことから始め、徐々に複雑な状況に挑戦させます。
- 共感性を育む: 自分の行動が他者にどのような影響を与えるかを考えさせることも重要です。「〇〇なことを言われたら、お友達はどんな気持ちになるかな?」といった問いかけを通じて、結果が自分だけでなく周りにも及ぶことを理解させます。
- 選択肢と結果を示す: 「Aという行動を選ぶと〇〇という結果になるよ。Bという行動を選ぶと△△という結果になるけれど、どうする?」のように、複数の選択肢とそれぞれの結果を提示し、子供自身に考えさせ、選ばせる機会を設けます。
年齢別の具体的な対応例
小学校低学年と高学年では、認知能力や経験の度合いが異なるため、対応のポイントも変わってきます。
小学校低学年(主に6歳〜8歳頃)
この年代の子供は、抽象的な思考よりも具体的で目の前の出来事に強く影響を受けます。結果と行動の間の時間的な隔たりが大きいと理解が難しいため、短期的な結果に焦点を当てることが効果的です。
- 具体的な行動と結果をセットで体験させる・教える:
- 例:「触ると熱いから、ストーブには近づかないんだよ。(結果:やけどして痛い)」
- 例:「おもちゃを箱に戻さないと、踏んじゃって壊れるかもしれないよ。(結果:おもちゃが使えなくなる)」
- 実際に小さな怪我や失敗をした際に、「あの時、走ったから転んだんだね。気をつけようね」のように、行動と結果を結びつけて振り返ります。
- 簡単な言葉で「なぜそうなるのか」を説明する: 理屈はシンプルに、「危ないから」「お友達が嫌な気持ちになるから」など、分かりやすい言葉で伝えます。
- 「もしも」の状況を一緒に考える: 絵本や遊びの中で、「もし〇〇ちゃんが△△したら、どうなるかな?」のように、フィクションを通して結果を予測する練習を取り入れるのも有効です。
- 肯定的な結果にも注目させる: ルールを守ったり、考えて行動したりしたことで良い結果が得られた場合は、「考えて行動したから、うまくいったね!」と具体的に褒め、良い行動にも結果が伴うことを教えます。
小学校高学年(主に9歳〜12歳頃)
この年代になると、抽象的な思考や少し先の将来を予測する能力が芽生え始めます。より複雑な状況や、短期的な結果だけでなく、長期的な結果についても話し合うことが可能です。
- 短期〜中期的な結果を考えさせる:
- 例:「今宿題をやらないと、夜寝る時間が遅くなって、明日の朝起きられなくて辛いかもしれないね。(結果:睡眠不足、授業中の眠気)」
- 例:「友達との約束を簡単に破っていると、どうなるかな? (結果:友達からの信頼を失う、遊んでもらえなくなる)」
- 自分で結果を予測するワークを促す: 何かを選択する場面で、「どっちを選んだら、どんなことが起こりそうか、少し考えてみようか」と問いかけ、子供自身の言葉で予測させます。予測が外れても否定せず、「なるほど、そう考えたんだね。実際にはこうなったけれど、次はどうしたらいいかな?」と一緒に考えます。
- 失敗から学ぶ機会を大切にする: 大きな問題にならない範囲で、自分で判断し、その結果を体験させることも重要です。失敗したこと自体を責めるのではなく、「今回の失敗から何を学んだか」「次はどうすれば良いか」に焦点を当て、次に活かすための話し合いを行います。
- 親自身の思考プロセスを見せる: 親自身が何か判断する際に、「お父さん(お母さん)は、〇〇だからこの方法を選んだんだよ。もし違う方法だと△△という結果になると思ったからね」のように、結果を考慮して判断している様子を言葉にして子供に聞かせます。
親の葛藤への対処法
子供が行動の結果を考えず、同じような失敗を繰り返す姿を見ていると、親はイライラしたり、不安になったり、時には「自分の育て方が悪かったのだろうか」と自身を責めてしまったりすることがあります。このような親の葛藤にどう向き合えば良いでしょうか。
- 子供の成長段階を理解する: 前述したように、結果を予測して行動する能力は、脳の発達とともに徐々に身についていくものです。大人のように完璧にできるわけではない、という現実的な視点を持つことが、過度な期待やイライラを減らすことにつながります。「まだ発達の途中なのだ」と理解することで、子供の行動を冷静に捉えやすくなります。
- 完璧を求めない、長期的な視点を持つ: 結果を考えて行動することは、一朝一夕に身につくスキルではありません。すぐに効果が出なくても落ち込まず、小さな変化や進歩を認め、長い目で見守る姿勢が大切です。
- 自分の感情に気づき、対処する: 子供の行動に強く反応してしまう前に、「今、自分はイライラしているな」「心配しているな」と自分の感情に気づく練習をします。深呼吸をしたり、一時的にその場を離れたりするなど、感情的に対応しないための自分なりの対処法を見つけておくと良いでしょう。
- 夫婦で対応方針をすり合わせる: 子供の過ちへの対応で夫婦の意見が異なると、対応が一貫せず、子供も混乱します。また、親自身も「これで良いのだろうか」という葛藤を抱えやすくなります。「結果を考えさせる」という点について、どのようなスタンスで、どのような言葉かけをするかなど、事前に夫婦で話し合っておくと、落ち着いて対応しやすくなります。
- 子供の「悪気がない」可能性も考慮に入れる: 子供の行動が、悪意からではなく、単に結果を予測できなかったり、衝動を抑えられなかったりした結果である場合も少なくありません。もちろん、してはいけないことは毅然と伝える必要がありますが、その背景にある子供の未熟さや発達段階を理解することで、過度に感情的になることを避けられます。
- 自分自身の休息も大切にする: 子育ては心身ともにエネルギーを消耗します。忙しい日々の中で、子供の過ちに向き合い続けることは大きな負担となることもあります。自分自身がリフレッシュできる時間や方法を見つけ、心にゆとりを持つことが、子供に冷静に関わる上で重要です。
まとめ
子供が自分の行動の結果を考える能力を育むことは、将来、社会の中で自立し、責任ある行動をとるために不可欠なプロセスです。この能力は、子供の脳の発達や経験とともに徐々に育まれるものであり、親が根気強く、年齢に合わせたアプローチで関わっていくことが求められます。
結果を考えさせる教え方には、行動と結果の関連性を具体的に示すこと、失敗から学ばせる機会を設けること、結果予測の練習をさせることなどがあります。小学校低学年では短期的な結果に焦点を当て、具体的な体験を通じて教え、高学年ではより抽象的な結果や長期的な影響についても話し合うようにすると良いでしょう。
また、子供の無計画さや軽率さに対して親が抱く葛藤は自然な感情です。子供の発達段階を理解し、完璧を求めすぎず、夫婦で協力し、自分自身の感情のコントロールにも意識を向けることで、この葛藤とうまく付き合い、子供の成長をサポートしていくことができます。
子供の成長は一直線ではありません。時に立ち止まったり、後戻りしたりすることもあるでしょう。しかし、親が粘り強く、愛情を持って関わり続けることで、子供たちは少しずつ、自分の行動に責任を持ち、結果を考えて行動できるようになっていくはずです。